最適なRFIDパフォーマンスのためのRSSIフィルタ活用ガイド
要約:RFID管理システムにおけるRSSI値は、距離推定や信号強度の把握に欠かせない要素です。RSSIフィルタを正しく設定することで、環境要因を考慮しながら、必要な範囲のタグのみを効果的に読み取り・書き込みでき、最適なRFIDパフォーマンスが実現します。
RFIDタグとリーダー間の通信品質を左右するRSSI(受信信号強度インジケータ)。その値を適切に理解し、最適化することで、RFID管理システムの精度と効率が大きく向上します。本記事では、RSSIの基本からフィルタ設定の実際のテスト事例までをカバーし、最適なRFIDパフォーマンスを実現するためのポイントを解説します。
RFID管理システムを効率的に制御するためのRSSI値の活用
RFID管理システムの基本機能を高めるうえで、RSSI値は重要な指標の一つです。これはタグとリーダー間の通信状態を数値化し、どの程度の距離で通信可能かを推定する手助けとなります。システムが複雑化するほど、適切なRSSI管理は欠かせません。
RSSI値の基本
RSSI値は、RFIDリーダーが受信する信号の強度を示す数値です。具体的には以下のような目的で利用できます。
- タグとリーダー間の距離推定
- タグ移動方向の特定(位相差などを併用)
- 読取り・書き込み条件の調整
- 金属や液体などの環境要因分析
- タグを探し出すためのガイガーカウンター的アプローチ
RSSI値の用途と効果
小売業やサプライチェーンなど、幅広い分野でRFIDタグは利用されますが、適切なRSSI値の管理によって、無駄なリーダー動作を減らし、効率的なオペレーションが可能になります。特に「タグ検知」アプリケーションでは、ユーザーを特定の対象物まで案内するためにRSSI情報が有効活用されています。
RSSI値と環境
RSSI値は、使用環境に大きく左右される点にも注意が必要です。屋内における金属や液体による反射・吸収、遮蔽物の有無など、様々な要因が通信に影響を及ぼします。環境を適切に分析し、必要に応じてRFIDリーダーの設置位置やアンテナのタイプを変更することで、RSSI値に基づく最適化が実現しやすくなります。
RSSIに影響を与える代表的な要因:
- 金属・反射物質による信号の反射
- 液体が持つ電磁波吸収特性
- タグ材質や形状
- リーダーとタグの間の遮蔽物や構造物
- 高度や向きの相違
環境分析の重要性
環境要因を無視したままRSSI値だけを頼りにすると、誤読や範囲外の読み取りなどが起こりやすくなります。屋内外の温度差や湿度、場所のレイアウトなども加味し、定期的なテストを行うことが、正確なRSSI値を得るうえで非常に重要です。
RSSIフィルタの活用
RFID読取時に、不要なタグを除外し、目的のタグのみを正しく読み取りたい場合にはRSSIフィルタが活躍します。例えば、一定距離内にあるタグのみを有効化し、強すぎるまたは弱すぎる信号を自動的に排除できるため、運用の精度が高まります。
書き込み時にはより強いRSSI値が必要となるケースも多く、フィルタを設定することで、リーダーが十分近い場合のみ書き込み操作を行うように制御できます。店内での商品の管理や、サプライチェーンにおけるトラッキング精度向上など、様々な現場で効果を発揮します。
NORDIC ID社によるRSSIフィルタテスト
RFIDリーダー大手のNordic ID社が行ったテストでは、RSSIフィルタ設定が実際の読取範囲にどう影響するかを調査しています。下記のような条件での実験結果は、一例として非常に参考になります。
使用した設定および装置:
- RFIDリーダー:Nordic ID Sampo S1 UHF RFIDリーダー
- パワーレベル:100mW
- タグ:UPM RAFLATAC Belt
- 環境:オフィス環境、室温20℃±2℃
- 外部アンテナ(利得:0dBic)
MIN RSSI設定は最小タグ返信パワーレベルを、MAX RSSI設定は最大タグ返信パワーレベルを定義します。

テストでは、MIN RSSI設定によりリーダーが最小しきい値以下のタグを無視し、MAX RSSI設定により最大しきい値を超える場合を除外します。これにより、誤読を防ぎつつ必要な範囲のタグのみを読取可能になります。
青い線は最小RSSI設定を使用した場合の最大読取範囲を、オレンジの線は最大RSSI設定を使用した場合の最小読取範囲を示しています。

図2では、タグが返信したRSSI値が特定の距離範囲にあります。例えば、RFIDリーダーから25~45cmの範囲では、RSSIレベルが-60dBmであることを示しています。
以下の表は、リーダーが受信できるRSSI値の最小および最大値の一例を示しています。
送信レベル | 最小RSSI値 | 最大RSSI値 |
---|---|---|
200-500mW(23-27dBm) | -72 | -48 |
200mW(<23dBm)以下 | -78 | -58 |
このように設定や装置が変わると結果も変動するため、目的や環境に合わせて調整・テストを繰り返すことが重要です。
この実験の結果は、この特定の場合に適用されます。設定や装置を変更する場合、再度実験を行う必要があります。