デッドスポットの回避とニアフィールドUHF帯RFID読み取りの最適化
要約:ニアフィールドUHF帯RFIDで避けられがちなデッドスポットを回避し、読み取り性能を最適化する方法を詳しく解説します。アンテナの磁場分布の改善やパラメータ調整による効率的なタグ認識で、小型製品や在庫管理に新たな可能性が広がります。
RFID技術におけるニアフィールド(近距離)とファーフィールド(遠距離)の違いは、単にタグのサイズや読み取り範囲にとどまりません。本記事では、ニアフィールドタグの読み取りパフォーマンス向上に焦点を当て、アンテナ設計やパラメータ調整の具体的な手法を解説します。特に、磁場分布の均一化によってデッドスポットを回避し、小型タグや密集したタグでも確実に読み取るためのポイントを紹介します。
ニアフィールドとファーフィールドの基本
UHF帯RFIDにおいては、リーダーアンテナとタグアンテナ間のエネルギー伝送方式として、ファーフィールドとニアフィールドの2種類に大別されます。ファーフィールドは電波を利用するため比較的長い読み取り距離が得られますが、ニアフィールドは磁場を利用するため、小型タグを使用できる一方で読み取り距離は限られます。
ニアフィールドUHF帯RFIDの特性と市場への応用
ニアフィールドタグはコンパクトで、化粧品や宝飾品などの小型パッケージにも実装しやすい点が強みです。通常、UHF帯では1波長がおよそ30cm(12インチ)ですが、この範囲内であれば磁場を効率的に利用できるため、小型タグでも十分なエネルギーを受け取れます。反面、読み取り距離の伸長には大きなアンテナ構造が必要になるため、タグを大型化せずに近距離での高精度読み取りを重視するケースに向いています。
アンテナパラメータの最適化と磁場分布の重要性
ファーフィールド用のアンテナ設計ではゲインや偏波、放射パターンなどを最適化しますが、ニアフィールドでは磁場の強度と分布の均一性が大きなカギを握ります。タグが密集して配置されている場合でも、磁場分布が均一であれば複数のタグを安定して読み取れます。SWVR(電圧定在波比)などの要素も重視しつつ、ニアフィールド特有のパラメータチューニングが不可欠です。
ファーフィールドでのデッドスポットを回避するアンテナ調整
ファーフィールドを念頭に置いた従来のループアンテナ(図1参照)やパッチアンテナ(図2参照)では、アンテナ中心部に磁場の弱い部分が発生しやすく、デッドスポットが生じることがあります。こうしたデッドスポットは、読み取りロスを招くため、在庫管理などで正確性を求められる環境では大きな課題となります。
図1は、従来のループアンテナの磁場分布を示しています。ループワイヤ/トラックの位置(緑色の領域)では磁場が強く、アンテナ表面の中央(青色の領域)では弱くなります。図2は、パッチアンテナの磁場分布を示しており、固定RFIDリーダーで一般的に使用されます。パッチアンテナは、固定RFIDリーダーで最も一般的なアンテナタイプです。


ニアフィールドアンテナの性能向上:均一な磁場分布の実現
ニアフィールドアンテナの効果的な設計ポイントは、磁場分布をいかに均一にするかです。従来型のループアンテナでは、導体線の電流が波長の4分の1ごとに反転するため、中心部で磁場が弱まるフェージングが起こります。これが読み取りの不安定化を引き起こす要因です。

この課題を解決する一つの方法として、セグメント化されたループアンテナがあります。ループを電気的に短くし、電流の向きを一定に保つことで、中央付近の磁場キャンセルを抑え、アンテナ表面全域で強い磁場を確保できます。


理論から実践へ:Nordic ID製品のテスト結果
Nordic ID社のNordic ID Sampoニアフィールドアンテナをテストし、改良されたアンテナが実際の環境でどのように機能するかを確認しました。結果として、ニアフィールドタグの読み取り精度が向上し、インベントリ管理が迅速かつ正確に行えることが確認されました。
Nordic ID社製アンテナでのテスト結果
セグメント化アンテナの理論的な優位性を実証するため、Nordic ID社の Nordic ID Sampoニアフィールドアンテナを用いて実環境で評価を行いました。その結果、読み取り精度が大幅に向上し、在庫管理のスピードと正確性の両立が確認されました。小型アイテムが多い小売業や化粧品・宝飾品分野での導入メリットが大きく、さらなる活用が期待されます。