RFIDリーダーの電波出力比較ガイド

2019/03/07
2025/01/18

要約:RFIDリーダーの電波出力は、タグの読取距離やアンテナの利得、国や地域の規制と深く関わります。本記事では、電波出力の基本概念や単位であるdBm、ERP、EIRPなどの違いを整理し、リーダー選定に必要な知識をわかりやすく解説します。

RFIDリーダーの電波

はじめに

RFIDリーダーの電波出力は、リーダーがタグをどの程度の距離で読み取れるかを左右する重要な指標です。しかし、実際には受信感度やアンテナ特性なども影響を与えるため、電波出力だけでリーダーの性能を一概に評価するのは難しい側面があります。そこで本記事では、電波出力の計算方法や比較のポイント、国別の法規制などを総合的に解説します。

RFID電波出力の基本

RFIDリーダーの電波出力は、一般的にmW(ミリワット)またはdB(デシベル)表記で示されます。タグが受け取る電波の強度を左右する要素ですが、受信感度やアンテナの指向性などの要因も加味しなければ、実際の読取距離を正確に把握できません。

電波出力の単位:mWとdB

電波出力は主にmW(絶対値)とdB(対数スケール)の2種類で表されます。dB表記の場合は比較対象が必要で、RFIDリーダーの場合、1mWを基準とするdBmが用いられます。
例:30dBm=1W、27dBm=500mW

読取距離の決定方法

RFIDリーダーの電波出力にアンテナ利得を加味することで、実効的な電波強度を算出できます。これをERP(実効輻射電力)やEIRP(実効等方輻射電力)と呼び、使用されるアンテナの基準によって数値が異なります。

ERP(Effective Radiated Power)は、ダイポールアンテナ基準の電波出力を指し、EIRP(Equivalent Isotropically Radiated Power)は、等方性アンテナ基準の電波出力を指します。

問題:どちらのリーダーがより遠くまで読取可能か?

  • 30dBm (1.0W) ERPのリーダー
  • 32dBm (1.6W) EIRPのリーダー

下部に答えがあります。

デシベル(dB)の基本

デシベル(dB)は対数関数を用いて2つの値を比較する際に用いられる単位です。たとえば、3dBは2倍、10dBは10倍といった具合に、指数的な関係を簡潔に表現できます。
一般的な目安:
・0dB:基準値と同じ
・3dB:およそ2倍
・6dB:およそ4倍
・10dB:約10倍
・-3dB:1/2倍
・-10dB:1/10倍

dBm Watts dBm Watts dBm Watts dBm Watts
1 1.3 mW 11 16 mW 21 126 mW 31 1.3 W
2 1.6 mW 12 20 mW 22 158 mW 32 1.6 W
3 2.0 mW 13 25 mW 23 200 mW 33 2.0 W
4 2.5 mW 14 32 mW 24 250 mW 34 2.5 W
5 3.2 mW 15 40 mW 25 316 mW 35 3.2 W
6 4.0 mW 16 40 mW 26 398 mW 36 4.0 W
7 5.0 mW 17 50 mW 27 500 mW 37 5.0 W
8 6.3 mW 18 63 mW 28 630 mW 38 6.3 W
9 8.0 mW 19 79 mW 29 800 mW 39 8.0 W
10 10 mW 20 100 mW 30 1000 mW 40 10 W

RFIDリーダーの電波出力では主にdBm、アンテナ利得ではdBiやdBd、dBicが用いられます。「i」は等方性アンテナ(等方性基準アンテナと比較された利得)、「d」はダイポールアンテナ(基準ダイポールアンテナと比較された利得)、「c」は円偏波アンテナ(基準等方性円偏波アンテナと比較された利得)を基準としていることを示します。また、dBiLが使用されることもありますが、その関係は明確でなく、使用は推奨されません。

アンテナ利得と電波出力を組み合わせて考える

リーダーのアンテナ利得が高いほど、指向性が強まり、狙った方向への電波強度は増します。電波出力(dBm)にアンテナ利得(dBi)を足すことでEIRPが算出され、ダイポールアンテナを基準にした場合は、さらに2.15dBを引いた値がERPになります。

アンテナの種類

  • ダイポールアンテナ:0dBd=2.15dBiに相当。等方性アンテナと比べ、特定の方向の利得が高い。
  • 円偏波アンテナ:dBicで表され、線形アンテナとの組み合わせ時に3dB程度の損失が生じるため、0dBic=-3dBiと換算される。

国別の電波出力制限

ヨーロッパ

ヨーロッパではERP(ダイポールアンテナ基準)を上限値として定める場合が多いです。例えば27dBm(500mW)の出力に5dBiのアンテナを使用すると、ERPはおよそ30dBm(1.0W)となります。

日本・アメリカ

アメリカでは主にEIRP(等方性アンテナ基準)を用いて上限値を規定します。先ほどと同じ例では、27dBm(500mW)+5dBiで32dBm(1.6W)となり、ヨーロッパと数値上の上限が異なる形で示されます。

問題の答え:同じ出力

結論として、30dBm ERPは32dBm EIRPと同じ実効出力を示しています。よって、両者は実質的に同等の読取距離が期待できます。

電波出力計算に用いられる公式

  • ERP(dBm)=RF出力(dBm)+アンテナ利得(dBi)-2.15dB
  • EIRP(dBm)=RF出力(dBm)+アンテナ利得(dBi)
  • dBi=dBic-3dB(RFID)
  • dBi=dBd+2.15dB

いくつかの計算例:

250mWの出力、アンテナ利得3dBiの場合
250mW =24dBm
ERP =24 dBm + 3dBi -2.15dB =~ 24.85dBm (305mW)
EIRP =24 dBm + 3dBi = 27 dBm (500mW)

400mWの出力、アンテナ利得4dBiの場合
400mW =~ 26dBm
ERP = 26 dBm + 4dBi -2.15dB =~ 28 dBm (630mW)
EIRP = 26dBm + 4dBi =30 dBm (1W)

500mWの出力、アンテナ利得6dBicの場合
500mW =27dBm
ERP =27 dBm + (6dBic -3dB) -2.15dB =~ 28dBm (630mW)
EIRP =27 dBm + (6dBic-3dB) = 30 dBm (1W)

1Wの出力、アンテナ利得6dBiの場合
1W = 1000mW = 30dBm
ERP = 30 dBm + 6dBi -2.15dB =~ 34 dBm (2.5W)
EIRP = 30 dBm + 6dBi = 36 dBm (4W)

1Wの出力、アンテナ利得9dBicの場合
1W = 1000mW = 30dBm
ERP = 30 dBm + (9dBic -3dB) -2.15dB =~ 34 dBm (2.5W)
EIRP = 30 dBm + (6dBic -3dB) = 36 dBm (4W)

このように公式を使用して、異なる単位の出力を比較することが出来ます。

RFIDリーダーのアンテナ利得と電波出力を理解するためには、異なる単位とその意味、および国による法律の違いを理解する必要があります。これにより、RFIDリーダーの性能を正確に評価し、適切なリーダーを選択するための判断材料を得ることができます。

RFIDリーダーの電波出力を理解するには、単純なmWやdBmだけでなく、アンテナ利得やERP/EIRPなど複数の要素を総合的に判断する必要があります。国ごとの法規制にも注意しながら、最適なリーダーを選択するために、本記事で紹介した計算式や単位変換の知識をぜひ活用してみてください。

さらに、ダイポール基準や円偏波基準による利得変換も念頭に置くことが大切です。正確な読取距離やシステム要件を把握するには、これらの単位変換を理解しておく必要があります。

RFIDリーダー選定のコツ

RFIDリーダーの種類と選択方法

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