RFIDチップの進化とその応用:EPC、TID、ユーザーメモリの基本ガイド
要約:
RFID技術は読取範囲やデータ容量の大幅な向上、センサー機能の統合、セキュリティ強化などを経て、多様な業界で活用が広がっています。EPC、TID、ユーザーメモリなど各メモリ領域の役割を理解し、今後期待されるAIやブロックチェーンとの連携を踏まえることで、効率的かつ安全な運用が可能になります。シェン・ヒーローでは、プロジェクトに最適なICチップ選定をサポートし、ビジネスの成長を後押しします。

RFIDチップの最近の進化
RFID(Radio Frequency Identification)技術は、過去10年間で多くの分野で進化を遂げ、私たちの日常生活や産業活動に大きな影響を与えています。以下に、その主な進化と応用例を詳しく説明します。
読取範囲と精度の向上
RFIDチップは、読取範囲が広がり、精度も向上しました。これにより、小売業では商品の棚卸しが迅速化し、物流業界では貨物の追跡がリアルタイムで可能になっています。たとえば、大型倉庫ではRFIDリーダーを設置することで、数十メートル離れたタグも一括してスキャンできるようになっています。
データストレージ容量の向上
従来は製品IDなどの基本情報しか保存できなかったRFIDチップですが、現在では製造履歴や品質管理データなど、多くの情報を格納可能です。これにより、医療分野では患者の治療履歴が一元管理され、食品業界では製品のトレーサビリティ(追跡可能性)が確保されています。
データ転送速度の向上
データ転送速度の向上に伴い、在庫管理やサプライチェーン追跡がさらに効率的になりました。大規模な物流センターでは、数千個の商品タグを短時間でスキャンし、即座に在庫状況を更新できます。
センシング機能の統合
最新のRFIDチップには、温度や湿度などのセンサーが組み込まれるケースが増えており、環境条件をリアルタイムでモニタリングできるようになりました。これにより、生鮮食品や医薬品など、温度管理が求められる商品の品質保持が容易になっています。
セキュリティとプライバシーの強化
高度な暗号化技術や認証プロトコルが採用され、不正アクセスやデータ改ざんから情報が保護されています。たとえば、防衛産業ではRFIDチップを利用して機密資材を追跡し、不正利用を防止する仕組みが整えられています。
コスト削減
製造技術の進歩と大量生産による規模の経済効果により、RFIDタグの価格は大幅に低下しました。これにより、中小企業でも導入しやすくなり、小売店や倉庫管理システムで広く活用されています。
RFIDメモリタイプの詳細
RFIDチップは、その用途に応じて異なる種類のメモリ領域を持ち、以下のように各領域がそれぞれの役割を果たしています。
バンク (番号) | 主な内容 | サイズ・備考 |
---|---|---|
Reserved (Bank 0) | キルパスワード(32ビット) + アクセスパスワード(32ビット) | 合計64ビット。初期値は0。 |
EPC (Bank 1) | CRC-16(16ビット)、PC(16ビット)、EPCコード(96ビット以上) | EPCコード領域は標準96ビット~最大496ビット |
TID (Bank 2) | タグIC固有のTID(メーカーID、タグモデル、シリアル等) | 最低32ビット以上(IC依存)。読み取り専用 |
User (Bank 3) | ユーザーデータ領域 | オプション。サイズ可変(0~数kビット) |
以下では各メモリバンクを順に解説し、そのビット構成を示します。
Reservedメモリ (Bank 0)
Reservedメモリはパスワードを格納する領域です。32ビットのキルパスワード (Kill Password) と32ビットのアクセスパスワード (Access Password) から構成されます。
キルパスワード (Kill Password)
- 32ビット長。Reservedバンクのアドレス0~31ビットに格納。
- 初期値0ではKillコマンド実行不可。非ゼロ設定で初めて有効になる。
- Killコマンドが実行されるとタグは永久に無効化され、二度と応答しなくなる。
- プライバシー保護や廃棄時のタグ無効化に使用。
アクセスパスワード (Access Password)
- 32ビット長。Reservedバンクのアドレス32~63ビットに格納。
- 初期値0では誰でもメモリ書き込み可能。非ゼロ値を設定して認証を要求できる。
- アクセスパスワードを設定すると、メモリの書き換えやロック操作時にパスワード認証が必要。
一部のRFIDタグICではパスワード機能がサポートされていない場合もありますが、Reserved領域自体は規格として確保されています。
EPCメモリ (Bank 1)
EPCメモリはタグの公開IDである電子商品コード (EPC: Electronic Product Code) を格納するバンクです。典型的には下記3つの領域に分かれます。
- CRC-16 (16ビット): タグICが内部で利用するエラーチェックコード。
- PC (Protocol Control)フィールド (16ビット): EPCデータの長さや拡張情報を示す制御フィールド。
- EPCコード本体: ユニークID(標準96ビット、最大496ビット)を格納。
PCフィールドのビット構成
PCフィールドは16ビットで構成され、以下のように複数のビットフィールドを含みます。
- EPC長 (Length) (上位5ビット): EPCコードの長さ(ワード単位)を表す。
- UMI (User Memory Indicator) (1ビット): ユーザーメモリの有無(0=無し, 1=有り)。
- XPCインジケータ (1ビット): 拡張PC(XPC)の有無を示す。
- Toggleビット (1ビット): EPCglobal準拠ID(0)か、独自コード(1)かを示す。
- RFU/AFI (下位8ビット): Toggle=0の場合はRFU(0固定)、1の場合はAFI値を格納。
代表的な例として、標準的な96ビットEPCを格納する場合、PCには0x3000
などが設定されます(長さ6ワード、ユーザメモリなし、拡張なし、EPCglobal準拠など)。
TIDメモリ (Bank 2)
TID (Tag Identification)メモリはタグIC固有の一意なIDを保持する領域です。タグ製造時にICメーカーが書き込み、一部または全域が読み取り専用です。構成は以下の通りです。
- 最初の32ビット: クラスID(8ビット) + メーカーID(12ビット) + 型番(12ビット)。
- それ以降: チップ固有拡張TID(XTID)や一意シリアル番号など。
一般にタグチップごとにTIDのサイズやフォーマットが異なるため、同じ型番であれば同一の前半32ビットを持ち、後半がシリアル番号などでユニークになります。TIDは製造時に書き込まれユーザーは書き換えできません。

マスクデザイナーID(MDID)ディレクトリ
ユーザーメモリ (Bank 3)
ユーザーメモリはオプションの読み書き可能領域です。サイズは0~数キロビットまでさまざまで、用途に応じて任意のデータを保存可能です。代表例は以下のとおりです。
- センサデータ/ログの保存: 温度などの測定値を一定間隔でユーザーメモリに書き込み。
- 賞味期限や製造ロット: 食品・医薬品などのロット情報や期限をタグ自体に記録。
- 暗号鍵や認証情報: 真贋判定やセキュリティ用途で鍵や署名を格納。
ユーザーメモリを読み取り・書き込みする際は、必要に応じてパスワードロックを設定し、第三者による改ざんを防止できます。
EPC Gen2タグの使用例
物流管理
小売・物流では、商品や梱包単位ごとにRFIDタグを貼付し、一意のEPCを割り当てることで在庫や出荷状況を追跡します。
SGTIN-96やSSCC-96といった標準的なEPCコードをEPCメモリに書き込み、リーダーで読み出すことでバックエンドシステムと連携します。
商品販売後はプライバシー保護としてキルパスワードを使用し、タグを無効化する例もあります。
資産管理
企業や病院、工場などで高価な備品・機器にタグを貼り付け、定期的に読み取りを行うことで在庫棚卸や所在確認を効率化します。
EPCメモリにGIAIやGRAIなどをエンコードし、ユーザーメモリにメンテナンス履歴や最終校正日を記録する使い方もあります。
ICタグのカスタマイズ
ユーザーメモリを活用して独自のデータを持たせたり、PCフィールドのToggleビットを1にして非EPCglobalコード体系を運用することもできます。
セキュリティ用途では、暗号鍵をユーザーメモリに書き込み、アクセスパスワードでロックすることで不正書き換えや改ざんを防ぎます。
未来のRFID技術:さらなる進化
進化を続けるRFID技術は、今後さらに多様な技術と融合していくと考えられます。以下のようなトレンドが特に注目されています。
- AIとの統合:リアルタイムで取得されるRFIDデータをAIで分析し、在庫最適化や需要予測に活用。
- ブロックチェーンとの連携:改ざんが困難なブロックチェーンに履歴を記録することで、透明性と信頼性を飛躍的に向上。
- 環境負荷の低減:再生可能素材や環境エネルギーを用いたタグ開発が進み、より持続可能な運用を実現。
- 過酷環境への対応:極端な温度や湿度でも安定稼働するタグにより、幅広い業種・業態に適応可能。
RFID技術は既に多くの産業で必須のツールとなっていますが、今後の技術的進歩や他技術との連携により、さらなる効率化・高度化が見込まれます。
シェン・ヒーローのRFIDタグ選定サービス
UHF帯RFIDのICチップ・タグの選定は複雑で、読取範囲、メモリ容量、耐久性、セキュリティなど多岐にわたる要件を総合的に検討する必要があります。Alien Technologies、Impinj、NXPなどの各メーカーの製品から、読み取り範囲、メモリ容量、耐久性、セキュリティなどの観点で選定を行います。シェン・ヒーローは、これらの要因を踏まえ、お客様のプロジェクトやビジネスニーズに最適なRFIDタグを選定するサービスを提供しており、専門知識と豊富な経験を活かして効率的で信頼性の高いRFIDソリューションの実現をサポートします。

RFIDタグの選び方ガイド